logo 10/14 横浜赤レンガホール ライブ・レポート


朝から続いていた快晴の空は、夕方になってもその透明感を失うことなく、淡い黄昏時を穏やかに演出していた。17時半過ぎ、赤レンガ倉庫2号館。入口付近に列が延び始めている。
ファンクラブ限定ツアーの最終日。この横浜公演の倍率は非常に高かったという。階段を上がり、長い廊下をくぐり抜けて会場に足を踏み入れた時、そのことを実感した。ホールというよりは、小劇場の空間だ。300席弱、パイプ椅子が並び、舞台は低い。ステージのスペースもかなり狭いが、その分、メンバー同士のコンタクトもよく見える。最終日を楽しもうという気合いはオープニングから、ステージからも、観客からも溢れていた。

中央の椅子に元春が座ったままギターをかき鳴らし歌う、というスタイルもすっかり板についたし、名古屋公演で佐橋佳幸の前にあった譜面台も今ではまったくの無用。ラストにしてピーク。最終日の醍醐味はいくつもある。

東京公演で消えてしまった「すべてうまくはいかなくても」「シーズンズ」が復活した。そんなことでも最終日を実感したりする。
今回のツアーでは、十数年ぶりに演奏される曲、初めての曲、アレンジをガラッと変えた曲等、椅子から転げ落ちるくらいに驚かされる選曲が多かった。特筆すべきは「Tonight」だろう。ゆったりとしたテンポ、力強く刻むリズム、押し殺したような低いボーカル、街の喧騒を表すかのようなギター、これが今の「Tonight」、今の「ニューヨーク」、そして今の「元春」。

アコースティックギターの音色が美しい「ジャスミンガール」が終わったあと、古田たかしと佐橋佳幸がそっと舞台袖に消えていった。なんの曲だろう。するとそれは「情けない週末」だった。最終日にして初めての演奏。いつも思うことではあるが、20年以上の前の楽曲であっても、元春は新鮮なアレンジで、まるで新曲のように披露してくれる。ラスト、山本拓夫のホーンが心に響く。

最終日の元春はいつもより雄弁だ。
「マンハッタンブリッジにたたずんで」では、アルバム「Someday」のB面2曲目に入れるプランだったが、大瀧詠一に「ナイアガラトライアングル Vol.2」に入れてほしいと頼まれて、何とも言えなかった、いやだとは言えなかったというエピソードを披露。また鹿児島ライブ滞在中のホテルで、アルバム「Someday」がベスト4に入ったというニュースを聞いて喜び、鹿児島の灰に埋もれたい気持ちだった、などと言い、会場の笑いを誘っていた。
「楽しい時」では、元春が立ち上がって歌うはずが、なぜか座ったままのスタイルでスタート、舞台袖のスタッフも苦笑い。そんなちょっとしたハプニングもまた楽しい。後半からは立ち上がり、「楽しい時を君と」というフレーズを会場一体となって歌い、第2部最大の盛り上がりとなった。

アンコール。みんなが踊りたい気持ちもわかるけれど、この曲を歌いたい僕の気持ちもわかって、と観客を座らせての演奏。このツアー初登場の「また明日...」、そして波打つ静けさで終わりを迎えた「Rock & Roll Night」、息を飲むほどに素晴らしい演奏だった。
おそらくおおよそのアンコールナンバーは決まっていたであろう。
しかし元春は、まるで自由に壊すかのように言う。
「もう1曲いこうか」
「ちょっとおやすみしてて」とメンバーに伝え、始まったのはギター弾き語りの「スターダスト・キッズ」。観客も大声で共に歌い、古田たかしはドラムを叩くマネ、佐橋佳幸は出番のないスチールギターに触れる。まるで元春が大きな輪の中で、皆に囲まれて歌っているかのような印象的なシーンだった。

ラストナンバーは「アンジェリーナ」。
この横浜で、この曲でデビューしました、と元春。すべてを終えて最後に感謝の言葉を口にした時、ほんの少し涙ぐんでいた。
自分はテレビなどではなく、ライブでファンの支持を得てきた、ライブが自分の原点、来年はライブの年にしたい。
それは元春と私達ファンとの約束の言葉。

Plug & Play'02 ツアー、4都市6公演。ファンクラブ限定ということで非常に地味ではあったが、確実に元春のキャリアに残る、意味のある素晴らしいツアーであったこともまた間違いない。(Esme)



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