MAGIC TIME 前作「LOVE PARADE」以来、実に24年ぶりにリリースされた通算14枚目のオリジナル・アルバム。伊藤銀次のセルフ・プロデュースで、上原裕(ドラム)、田中章弘(ベース)、西本明(キーボード)、ダディ柴田(サックス)、田中拡邦(ギター)らを中心に、いまみちともたか、杉真理らがゲストで参加している。 作詞にポリスター初期に『BABY BLUE』などを手がけた売野雅勇、太田裕美らを起用したほか、いずれも故人となった大滝詠一の『青空のように』、村田和人の『堕落の夏』をカバー。『恋をもう一度』は杉真理との共作。また、『虹』は脳性まひの病床で詩を書いている平田喜久代の作品に曲をつけたもの。 ソロ・アーティストとしては長い間オリジナル音源の発表が途絶えていたが、2000年頃からは「I Stand Alone」と題したギター弾き語りのライブ・シリーズを行って4枚のライブ・アルバムをリリース、2012年には新録音源を収めた2枚組のベストをリリースし、さらに今年に入って「DEADLY DRIVE」の40周年記念盤をリリースするなど、活動は徐々に活発になって、オリジナル・アルバムのリリースが待たれていた。 一聴すると、ワイルドなギター(いまみちか)が前面に出た『今夜はGET UP & GO!!』、『BABY BLUE』の後日譚『2017年のBABY BLUE』、ロッカバラードの『星降る夜に』など、ポリスター初期を思わせるポップ・チューンが印象に残るが、聴きこむに連れ、冒頭の『二人のGROOVY LOVE』『さみしいときには』『トワイライト・ガール』『涙が止まらない』などのシンガーソングライター的な作品の存在感が増してくる。 杉との共作である『恋をもう一度』やカバー曲『青空のように』『堕落の夏』なども流れにうまく落としこまれており、全体として伊藤銀次らしいポップなアルバムに仕上がっている。ソロ作品では散漫になりがちな銀次のプロデュース能力がうまく発揮され、バランス感のある構成になった。起承転結の「転」にあたる曲が見当たらず(敢えて言うなら『堕落の夏』か)、流れが直線的になったのがやや惜しまれる程度だ。 特筆しておきたいのは『BABY BLUE』の作詞者・売野雅勇を起用した『2017年のBABY BLUE』の鮮やかさである。タイトルが自己言及的なのはやや微妙だが、原曲の歌詞・編曲を踏まえながら、この曲単体としてもアルバムを代表するポップなナンバー。1982年から2017年の35年間(!)に橋を架けた名作と言って差し支えないと思う。 重要なことは、このアルバムが懐旧的なメモリアルではなく、伊藤銀次の現在を感じさせる瑞々しいポップ表現として2017年という困難な時代ときちんとフックしていることだ。それは銀次がアーティストとして、誠実にリスナーや状況と向かい合い、今鳴らされるべき音楽は何かというテーマに対して真摯にコミットしているからに他ならない。24年間待った甲斐のある作品である。 残念だったのは、一部の曲(例えば『今夜はGET UP & GO!!』や『堕落の夏』)で明らかに声域にムリがあること。カバーの『堕落の夏』はともかく、オリジナルでは初めからキーを調整することはできなかったのか。聴いていて苦しい。 2017-2019 Silverboy & Co. e-Mail address : silverboy@silverboy.com |