logo 伊藤銀次 / at 大森・風に吹かれて / 2009.5.10


最近銀次が精力的にソロ・ライブをやっているのはサイトの情報などから知っていたが、約2年ぶりに見に行くことにした。場所は大森のライブ・ハウス「風に吹かれて」。大森で電車を降りるのはポケモン・スタンプラリー以来だ。そういえばモースで有名な大森貝塚はこの近く?

今回は「I STAND ALONE」と銘打ったギター一本の弾き語りツアーであり、全国の小規模なライブ・ハウスを中心に回っているようだ。結論からいえばライブはとても楽しかった。演奏曲はファンからのリクエストをベースに決めたということだが、初期の作品から93年のアルバム「LOVE PARADE」までほぼ万遍なく選ばれ、ごく一部の曲を除いてはうまくギター一本にアレンジできていて、原曲のイメージを損なわず、なおかつ無理なくアコースティック・セットで楽しめた。

以前にも書いたことだが、ギター一本で演奏されることで、銀次の曲がいかに美しいメロディと繊細で複雑なコード・プログレッションを核に構築されているかが手に取るように分かる。プロのソング・ライティングというのはこういうものだと改めて感嘆しないではいられない。銀次の細い声のボーカルもよく通っていた。声質は細いのだが声そのものはよく出ていて、音程もしっかりしていた。

途中、青木とも子、戸田義則、高橋結子を迎え、クラウディ・ベイとして何曲か演奏したが、この音の厚みはよかった。銀次のギターに加え、ウッドベース、パーカッション、エレキピアノというアンサンブルは、アコースティックな音の響きを大切にしながらもリズムとグルーブを生み出し、銀次もギターでソロやオブリガードを入れる余裕ができる。このセットで銀次のオリジナルをやるというアイデアもいいのではないかと思った。

東芝時代の音源については、リマスター再発の動きがあるものの諸事情で難航していることが明かされた。また、ギター一本での弾き語りCDを発売する計画があることも発表された。楽曲が新曲か既発表曲の再録かははっきりしないが、今回のツアーの成果を記録するという趣旨からはたぶん既発表曲の再録だろう。自主レーベルでの制作で、ライブ会場のみでの販売、6月の京都公演には間に合わせたいとのことであった。

さて、僕としてはこれを書かずにはいられないのだが、この日のライブがよかった分だけ、やはりこれがこうしたある意味閉鎖的な環境で行われることに抵抗を感じない訳には行かない。会場はライブ・ハウスというよりはライブ居酒屋といった方が正しい店で、普通にテーブルを並べた状態で30〜40人程度の入り。相席は必至で、それも顔見知りで固めたファミリー的な雰囲気が強く、正直、かつての銀次を知るファンが思い立って一人で見に来るには敷居が高い。僕もたまたま誘ってくれる人があったので一緒に行ったが、一人なら行かなかったと思う。

それに東京で休日にやるのにこの集客は寂しい。銀次のライブなら行ってみたいという潜在的なリスナーはもっとたくさんいるはずだ。新譜もないので銀次を聴いたことのないリスナーに訴求するのは難しいかもしれないが、せめてかつて銀次の音楽に親しんだことのあるリスナーを呼び込むことは可能なはずだし、そのためにはもっと会場の雰囲気をだれでも気軽に入れる開かれたものにしなければならない。

アンコールで演奏されたクラウディ・ベイ編成の「幸せにさよなら」は素晴らしかった。僕は銀次の音楽を、もっとたくさんの人に聴いて欲しいと思う。



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