THE COMPLETE COCONUT BANK 2003年にリリースしたココナツ・バンク名義のミニ・アルバムの完全盤という体裁で、2003年盤に収録した6曲に、新たにレコーディングした7曲を加えたフル・アルバム。今回のメンバーは、2003年の時の伊藤銀次、上原“ユカリ”裕、井上富雄に加え、ギターには2003年の久保田光太郎に代わって田中拡邦が参加している。 新録7曲のうち、『日射病』は伊藤銀次のソロ名義で「Niagara Triangle Vol.1」に収録されたもののリテイク。また『おはよう眠り猫君』はココナツ・バンクの前身であるごまのはえ時代のレパートリーで40年越しのスタジオ音源化(1973年9月21日のライブ・テイクがココナツ・バンク名義で「Niagara Fall Stars」に収録されている)。したがって純粋な未発表曲は『ざっくばらん』『愛はちょっと』『流星ラプソディ』『じんじんじん』『春待ち顔 人待ち顔』の5曲である。 ココナツ・バンク名義の作品ということで、全体にはアメリカン・ルーツを意識したアーシーな音作り。特に2003年発表のオープニング・ナンバー『東京マルディグラ』の豪快なセカンド・ラインに続いて披露される新曲『ざっくばらん』はリクオのピアノがにぎやかなニュー・オリンズ・スタイルの曲。 一方でシンガー・ソングライター系のピアノで聴かせるミドル・バラード『愛はちょっと』やポリスター時代を思わせる『流星ラプソディ』、軽快な『じんじんじん』など、銀次の引き出しの豊富さを感じさせるポップな曲も収められており音楽的なレンジは広い。ココナツ・バンクという一応の「型」ははめているものの、実質的には銀次のソロというべき作品だ。 2003年盤の作品や『日射病』『眠り猫君』を合わせた全体の流れも違和感なく、アルバムとしてのまとまりは悪くない。佐野元春、杉真理、Dr.kyOn、いまみちともたから、豪華なゲストも参加しているが、出過ぎることなく銀次の表現をうまくサポートしており好感が持てる。 新曲が実質5曲という微妙なバランスもいい方に作用したか、リリカルで瑞々しい歌詞と素直で歌いやすいメロディ、意外なほど計算され洗練されたコード進行や曲構成など、銀次のソングライターとしての能力が存分に発揮した佳曲ばかりで健在を印象づける。デビュー45周年の企画ということだが、コンスタントなレコーディング活動を期待したい。 2016 Silverboy & Co. e-Mail address : silverboy@silverboy.com |